本日の風南島の天気。気温26度、湿度0%。
 風は弱めで雲は少なめ、雨の心配はありません。
 いつも通り、この島の空には、透き通るような青色が海の向こうまで広がっています。
 思わずあくびが出てしまいそうな、素敵なくらいの快晴です。

 「ふふふ……」

 今日もこの島は、たくさんの幸せで溢れています。
 駆け回っている子供たちも、それを眺めるお母さんの顔も、みんなみんな、太陽に負けないくらいの笑顔を浮かべています。
 心の底から、幸せそうです。
 それを見ているだけで、私も釣られて笑っちゃいそうです。
 というか、たった今笑っちゃってましたね。

 「いけません、いけません……」

 笑顔になるのは喜ばしいことだとは思いますが、私の、私にしか出来ない仕事を忘れてはいけません。
 天には、この島に住む人たち全員を幸せにするという使命があります。
 私の役割上、幸せになった人たちの笑顔を確認するのは大切ですけど、悲しい顔をしている人や、困った顔をしている人を助けてあげるのは、もっと大切なことです。

 「ですが……大丈夫みたいですね」

 人工妖精からの緊急報告は、今のところ届いていません。
 定期報告やリアルタイムで更新されるデータをチェックしてみても、島の皆さんは特に問題なく過ごしているみたいです。
 それは、誰も不幸になっていないということですから、つまり……。

 「とってもいいことです!」

 今日も今日とて、風南島は平常運転です。楽園の名に恥じない、見事なまでの平和っぷりを見せています。
 ちょっと暇かなと思ったりもしますけど、それが一番ですよね。
 だって、私が忙しくないということは、誰もが幸せに過ごしている、何よりの証拠ですから。
 だから私も、こうしてのんびりと……。

 「おっと……。そういえば、そろそろ時間ですね」

 今日の飛行機が到着する頃です、すっかり忘れてしまうところでした。

 「えっと……」

 データベースにアクセスしてみると……今日から風南島に移り住んでくる人もいるみたいです。
 それはつまり、新生活が始まることを意味しているわけで、新しい入居者にとっては困ること山積みのはずです。

 「ということは」

 私の出番です!
 そうと分かったら、早く空港へ行って迎えてあげないといけませんね!
 だって善は急げと言いますから。

 「さてと……」

 困りました。着いたのはいいですけど、どなたがどなたか分かりません。
 知っている顔もいれば、初めて見る顔も数人いるみたいです。
 その人たちも、全員が全員、今日からこの島に住み始める人でもないみたいですし。
 ここは、入島管理のデータベースの力をお借りしましょう。

 「えーっと……」

 入島手続きを終えた方々の中で、11月29日付で風南島での生活を開始する人は……出ました。
 学生さんが1名、検索にヒットです。
 名前は……。

 「高村……敦也さま。あはっ」

 素敵な響きの名前です。天、ちゃんと覚えました。
 これからの生活が幸せに過ごせるよう、天がお手伝いをしましょう。
 なんでも初めが肝心なのは、当然のことですから。

 「よし……!」

 敦也さまは……あの方ですね、写真と顔も一致します。
 ではでは、早速参りましょう。
 そしてまずは、この風南島のことを教えてあげないといけませんね。
 この島の魅力とか、居心地とか、楽しいところとか、話さなければいけないことは、たくさんあります。

 風南島での敦也さまの生活が、少しでも幸せに向かうように。

 素敵な毎日を送って頂けるように。

 「それでは……」

 まずは、笑顔で挨拶してみましょう。
 そして、元気よく伝えるんです。

 楽園にようこそ! と――――