11/29(日) 14時
「忙しいところ呼びつけてすまないな」 相変わらず書類の山には囲まれているものの、今日は比較的にスムーズな進行ができていた。そのせいもあって、あまり家に居ることのない父を待たせずに済んだのは幸いだった。 「実は、この後すぐにまた、島を出なければならなくなったのだ」 そう、忙しいのはいつものこと。ならば、父が安心して仕事ができるよう、私が頑張るだけ。 「明日、転入生が来ることになっているのは知っているな?」 ただ……特別な問題があるわけではないけれど、一葉荘のメンバーのことを考えると、学園についての説明以外にもしなければいけないことがありそう……。 「……用事は、その件についてのみですか?」 お部屋に行けばあの子たちが待っていて、その顔を一目見るだけで、いつも沢山の元気をもらえているのだから。 「ところで、出発は何時なのですか?」 どことなく余所余所しさを感じたのは気のせいだろうか。先程までの仕事の顔とは違う、別の何かが一瞬見えた気もしたし。 「恋人はいるのか?」 えっと……えっ? 「だから、恋人はいるのか?」 どういうこと? さっきまでの会話は事務的なものだけで、それが終わってもすぐすぐ出かけなければいけないというこの状況で一体……。 「やはり、父親にこういうことは話しづらいか?」 いけない。このままでは恋人がいることをまるで口籠もっているかのように見られてしまう。けれど、質問の意図が分からないままでは……。 「……そういう方はいません」 お父様の真意がやっぱり分からない。ただ、欲しいのかと言われると……。 「……そういう余裕もありませんので」 そうとしか答えられない。私の中にその問いの答えは見つからなかったから。実際に余裕がないのは間違いないのだから、嘘はついていないけれど。 「そうか。突然すまなかったな」 慌ただしく部屋を出て行く父の表情も背中も、仕事に厳しいいつものそれと変わりが無かった。ただ単に、興味本位で聞いてきただけなのだろうか。
11/30(月) 12時40分
『2年3組の高村敦也さん。 放送部の方がお仕事をしてくれたので、次は私の番ね。 「学園生活での楽しみ……」 恋愛も、学園生活を楽しむという意味では普通にあることなのだろうけれど……って、いけないいけない。気持ちを切り替えなければ、説明に抜けが出てしまう。そうなってしまったら、迷うのは彼なのだから。 ――コンコン。 「はい」 『えっと……高村敦也です。 ……落ち着いて、いつもどおりに。 「――どうぞ」 |