んー……今日の風は、いつもより強いかな。
めですが飛ばされないように、押さえてないといけないくらい。
うん、太陽もキラッキラ。人工妖精さんもそれにつられて、キラキラ笑ってるみたい。
「やっぱり、ここからの景色は最高だよね」
『そうでありますか』
「そうでありますよ〜」
『マネするのはずるいでありますよ、ひまり』
「そう?」
『風に飛ばされないよう、ワタクシを気遣ってくれるのはありがたいでありますが』
「あはっ、それは気にしなくていいよ。めですが飛んじゃったら、大変だからね」
とりとめのない会話でも、めですはわたしに合わせてくれる。
ほんと、いいお友達。
「ねえねえ、あそこの雲を見てよ」
『あの雲がどうしたでありますか?』
「あれ、めですに似てない?」
『ワタクシでありますか?』
「そうだよ。だってほら、上のところに耳みたいな形もちゃんとあるし」
『言われてみれば……くらいでありますな。ワタクシには、ちょっと潰れた大福にしか見えないでありますが』
「あははっ、ちょっと潰れたっていうのがポイントだね」
青い空と、真っ白な雲。
それが風に流れながら、少しずつ形を変えていく。
ずっと見ていても、全然飽きない。
やっぱり、ここの景色は大好き。
「あれっ、今すっごいおっきな魚が跳ねたよ」
『ワタクシは見逃したでありますよ。どれくらい大きかったでありますか?』
「30メートルくらい?」
『それは大きすぎであります』
「じゃあ、話半分で15メートルくらい?」
『それでも大きすぎでありますよ。それより、なんで疑問系でありますか?』
「ここからじゃ大きさは分からないよ」
『15メートルもあるのは、クジラくらいでありますよ?』
「クジラは見てみたいなぁ」
『この島の周りには居そうでありますけれど』
「あとで調べてみようか。忘れてなければ」
『忘れそうであります』
「あっ、ひどーい」
『さっきのお返しでありますよ。ふぉふぉふぉ』
「あちゃー、やられた〜。あははっ!」
少しだけ、太陽が大人しくなってきたのかな。
まだ2時すぎだけど、今は冬の初めだからね。
「そうだよね……」
『今度はどうしたでありますか?』
「んーっとね、今が冬だなんて信じられないなぁって。だって、ここから見回してみても、冬らしさなんて全然ないんだよ?」
『人工妖精が雪みたいでありますよ』
「降るっていうよりは、舞うって感じでしょ? それに、一面真っ白な景色でもないし」
『確かに、夏真っ盛りという景色でありますな』
「でも、だからここの景色は、いつも同じで落ち着くんだけどね」
『そうでありますなぁ』
ほっぺたを撫でてくるように、風が甘えてくる。
潮の香りが心地いい。
「――あれっ? こっちに誰か来るね」
『そのようでありますね』
「なんだろ。みんなヘルメットかぶってるよ?」
『かなり前にも一度あったでありますが、おそらく灯台の調査だと思うでありますよ』
「ああそっか、たまにしか使ってないからね。でも、だとしたらお邪魔かな、わたしたち」
『それは分からないでありますね』
「うーん……」
ここは危ないから――なんて気を遣わせたら嫌だよね。
お仕事の邪魔をしちゃ悪いし。
「どっか行こっか、めです」
『どこへ行くでありますか?』
「んー、どっか。とにかく今日は、ここの景色とバイバイしようよ」
『ひまりがそう言うのであれば、ワタクシに異論はないでありますよ』
「あはっ、じゃあ行こう」
買い物もとくにないし、そのまま寮に帰っちゃおうかな。
まったりしてたら、お昼寝もいいし――
『ああっ、大変ですっ!』
「えっ――?」
今、声が……。
「あれ、天ちゃんだよね?」
『そうでありますね』
「なんだろ、すごく慌ててるみたいだけど」
『トラブルでありますかね』
なんなのかな、この不思議な気持ちは。胸騒ぎとは違うと思うんだけど……。
「……ねえ、行ってみようよ」
『ふぉ?』
「どしたの? ふぉって」
『いえいえ、ひまりから関わろうなんて珍しいでありますから』
「そうかな?」
『ふぉふぉふぉ、そうでありますよ』
「あー、なんか企んでるー」
『企んでなんかないでありますよ。それより、緊急事態かもしれないでありますから急ぐでありますよ』
いつも、島のみんなの困り事を助けてくれる天ちゃんだからね。
こういうときは、お互い様かな。
「そうだね。とにかく行ってみよう、めです――」
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