11/29(日) 14時
「――むっ」
どこぞの使い魔ではないか。食料の調達に来た矢先に丁度よく出くわすとは。こやつの主は、余程我のことが気になっていると見える。
「主はおらぬのか?」
『にゃーん』
「それとも、お主一人なのか?」
『にゃーん』
「むう、何度聞いても同じ答えしかせぬとは、なかなかやるではないか」
『にゃーん』
鋭い目つきもさることながら、この黒の毛並みも相応の魔力を秘めているのが分かるな。だが、人間の言葉は通じておらぬようだ。さすれば我も……。
「……にゃーん」
『にゃー!?』
「あっ、ま、待つのだっ!」
むう、血相を変えて逃げていきおった……発音を間違えてしまったのだろうか。
いや、我に恐れをなしたのだろう。魔王の血をひく我が同じ目線で接したことで、何かしらの圧力を感じさせてしまったわけか。
「だが……」
それはともかくとして、先程から気になっていたのだが、どうも今日は周囲の様子がおかしい。
四つ足の使い魔のみならず、羽根付きの使い魔も、残飯を漁るのを忘れてまで我の姿を凝視しておった。
普段であれば無機質な赤で我を遮る規律の標(しるべ)も、全てが青のままであった。知る限りではここまでに6つほどあるが、我は難なく目的の地へと向かえておる。
「そういえば」
確か、ヌー最新号の星占術にあったな。我の星の運気には、何やら面白いことが起こるやも知れぬ気配がある――と。
今日起こっておる事の全ては、その前兆とでもいうのだろうか。
だが、面白いことというものに心当たりは……。
「……む」
心当たりはあるな。
白の守護者が言っておったはずだ。我が根城に新たなる住人が来るということを。
であるならば、ヌーが暗示した面白いことというのは、その新たな住人のことなのかも知れぬな。
「フフ、フフフッ……」
中々に熱い展開ではないか。もしかしたら、姿を見せぬ使い魔の主がその人間かもしれぬ。となれば、我を真っ先に調べおく手筈を見る限り、かなりの手練れであろう。
心躍らずにはおられぬ。
「だが」
白の守護者に詳細を尋ねるのは、得策ではないか。魔王の娘である我が、まるではしゃいでおるようだからな。惨めな姿を曝すことなどできぬ。
ここは、逸る心を抑えて、時が熟すのを待つのが最善であろう。今は糧の調達の方を優先すればよいのだ。
「フッ、明日が楽しみだ」
『にゃーん』
「む、戻って来おったか」
『にゃー』
「こ、これ、そう気軽に我の足へと纏わりつくでないぞ」
『にゃぁ』
「むぅ……し、仕方あるまい。今日の我は気分が良いからな。特別に許してやろう」
『にゃー』
「く……お主、我に魅了の魔法を掛けたのではあるまいな……」
……糧の調達は、もう少し後にしておくか。
しかしこの使い魔、やけにもふもふしておるではないか……。
11/30(月) 8時
我としたことが、気持ちが高揚しすぎて、つい夜更かしをしてしまった……。
おかげで、根城での接触をし損ねてしまったのだが。
「ん、このような時に、誰が……」
授業まであまり時間もないというのに……む、白の守護者とな。して、用件は……。
「むっ……これは……」
そうであったか……これはなんたる偶然か、それとも運命なのか。
白の守護者め。丁寧に『よろしくお願いしますね』などと付け加えつつ、かの者が我と同じクラスであると連絡をよこして来おった。
あれ程の者が我を頼るとすれば、我も全力で臨まねばならぬな。
何にせよ、教室では逃げも隠れもできぬ。使い魔を差し向けて我を誘惑することもできぬ。ならばあとは、正面から接触するだけの話なのだからな。
「滾ってきたわ……フフッ」
この扉の向こうに、かの者がおるのか。
まずは我が目で、その力を確かめさせてもらおうぞ、輝く者よ。
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