東京市から戻る列車の中で芹人は妹・桜美の夢を見た。
夢の中の桜美は、住み慣れた白鷺館の車留めから、どこかへ出かける芹人を見送っていた。
ただ、その妹はどこか彼の知っている彼女とは違って、哀しげな表情をしていた。
芹人には、1ヶ月前に同じような光景を見た憶えがあった。
両親の元へ滞在する為に東京市へと向けて白鷺館を出る時、桜美は芹人を車留めから見送った。
兄を見送る時、妹はずっとむくれた表情で彼を睨んでいた。
(だからあんな夢をみたんだろう)
列車は今、国境を流れる新川に架かる長い橋を渡っている。
キラキラと光るその水面を車窓から眺めながら、芹人は一ヶ月ぶりの故郷・彩玉を想っていた。