しんしんと桜が舞っている。 狂ったように舞っている。 驚くほどゆったりと。 音もなく。 天使の羽のような花びらの散りざまは、まるで永遠を思わせる一瞬。
「ああ……俺って詩人(ポエマー)」 7年前から枯れなくなった桜。 そんな神秘的な桜を見上げて冗談か団子くらいしか思い描けない少年 ――朝倉純一は、初音島の風見学園付属に通う3年生。 卒業を間近に控え、めんどくさがりの彼は 義理の妹である朝倉音夢と桜並木を歩きながら呟く。
「……かったりぃ」
「ほらほらっ、兄さん、春休みまで後少しですよ♪」 手を繋いで、音夢が首の鈴を鳴らしながら駆け出す。 「その後は、進学してまた勉強漬けだろうが……」 ため息をついて青空を見上げながら、 純一は、口調とは裏腹に満更でもない笑みを浮かべていた。 進学を控えて別れもあるが、もっと多くの新しい出会いがあるだろう。 この楽しい学園生活も、まだまだ捨てたもんじゃない。
枯れない桜を見上げて、まだ、ほんの少し先の春を夢見た。