第一回戦(神経衰弱)

それぞれも欲しいモノを賭けた熾烈で醜い争い……。ついにHP上に告知もされ、逃げ道のなくなったスタッフ達。

第1回の戦いの日が近づき、広報担当ヨコタが今回のルールを説明するべく、スタッフを会議室に集めた。

『第一回戦は、チーム戦です。チーム構成と対戦カードはこちらで勝手に決めさせてもらいました』

なぜ、チーム戦をする必要があるのかと、ヨコタに問い質すスタッフ。仲間で闘う心強さはこの戦いの趣旨からは大きく外れている気がする。

『“想いの力”ですよ。今回はそれを大事にしようと思いまして。人を想う心が力を大きくする、そうですよね皆さん』

想いの力。それこそがHiME達を支えてきた唯一の希望であり力の源。もし、あの闘いを仲間同士で闘うことが出来ていれば未来は変わっていたはず。

『あ、言っておきますけど、個人がどれだけ勝とうと、チームが負けたらその瞬間にメンバー全員負け決定ですから』

『たとえば、秋蕎麦さん。あなたが勝っても、お仲間であるしゃゆりさんや林ディレクターが負けたら、あなたはその時点で賞品獲得権はなくなります』

『もちろん、逆もそうです。自分が負けてても、チームさえ勝てば二回戦にあがることができます』

『なので、力を合わせて頑張って闘って下さいね。あ、第二回戦は当然ですが、その勝った仲間同士で闘ってもらいますから』

そうだよ! よく考えたら最終的には最後の一人を決めない限り闘いは終わらないのだ! 序盤で結束を高めれば高めるほど、駆けた想いは……。イヤなシステムだ! 誰が考えたんだと一同がヨコタを睨む。が、それでこそと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる。

『一回戦は神経衰弱です。といってもただやったんじゃつまらないので独自のルールを加えさせてもらいました。一癖も二癖もあって、結構楽しいと思いますヨ?』

ということで、ヨコタから発表された神経衰弱の追加ルールは以下のようなものだった。

カードをめくる前に、必ずサイコロを振る。

1・2が出たら、通常通りのプレイ。

3・4が出たら、2回めくることが出来る。

5・6が出たら、最初の1枚は対戦相手が好きなカードをめくる。

1枚だけ隠されたジョーカーを引くと、獲得札交換を相手に要求することができる。


『ゲームの勝敗は最後までわかりません。ルールを利用してどうか自分に有利なバトルを行なって下さい』


Aチーム
Bチーム
秋蕎麦
VS
鳴海
VS
ジョニー
まり
VS
加藤アスケ
しゃゆり
VS
イカハタ


秋蕎麦
VS
鳴海

【秋蕎麦の欲しいもの】

【鳴海の欲しいもの】

●前半
『あー、栄えある第一戦は原画家同士ですね』繊細なタッチで玖我なつきの人気を不動のものにした秋蕎麦と修羅から原画初参戦の鳴海の対決。

鳴海は緊張しているせいか初っ端3ターン目で服の袖で違うカードを引っかけてめくってしまうなどミスをする。
『それ、なかったことにしていいから』と優しく声をかける秋蕎麦だったが、もちろんヨコタは『そんな甘い話がある訳がない』と認めない。

最初のペアは秋蕎麦が取る。鳴海はそれに続こうと場を睨み付け気合いで引いたカードが、なんとジョーカー!

『あーあ、もう引いちゃったんですか? ジョーカーは大差がついてる中盤に引いてこそなんですが』と文句を言うヨコタだったが、プレイしている側からすれば、早めに取っておくことに越したことはない。たった一組ではあったが、鳴海は秋蕎麦が取っていたカードを受け取る。

秋蕎麦は、サイコロ運がいいのか3・4を連発。記憶力も高く立て続けにカードを当てていく。
鳴海はプレイ中『覚えられない……』と嘆きながらカードをめくっていた。サイコロも1・2しか出ず、運に見放されたのか、秋蕎麦の半分も取ることが出来ない。

後半、秋蕎麦が調子を崩し、鳴海にヒントを与えてしまう。
現在場に残っているカードを全部当てれば、鳴海は逆転勝ちが可能! しかしそんな時に限って出たサイコロの目は

なんと5! 最初の1枚は秋蕎麦に引かれてしまうことに!

『さて、鳴海さんは無事逆転することができますかねぇ』
クククと悪意のこもった笑いで二人を見るヨコタだった。


●後半
逆転の可能性がある鳴海は、最大のチャンスの場面でサイコロの5を出してしまう。最初の1枚を秋蕎麦のいいようにめくられては続けて当てることは出来ない。

秋蕎麦も勝利を確信しているのか、すっかり落ち着いた表情でどれをめくってやろうかと鳴海を嘲笑いながらカードを物色。そして、引いたカードは──

『秋蕎麦さん、それさっき出たカードの片割れじゃないすか』

ヨコタのにやけた声に秋蕎麦は思わず『おあーっ』と叫び声をあげ、頭を抱える。油断大敵! 自ら痛恨のミスを出してしまった!

一時は落胆の表情を見せた鳴海だったが、秋蕎麦の醜態を見て再びメガネに輝きを取り戻す。まだ自分の負けは決まった訳ではない! むしろ、勝機は我に!

『やりました! 魚沼産のおいしいお米はゲットさせていただきます!』と鼻息を荒くする鳴海だったが、しょせんは今までろくにカードを取れてなかった彼女。そのまま1組目でつまずいてしまう。

その後は、秋蕎麦と取りつ取られつの勝負を繰り広げるが、結局追いつくことは出来ず、おいしいシーンのないまま鳴海は負けてしまった。


獲得ポイント
秋蕎麦15組
鳴海11組
対戦結果
【勝ち】秋蕎麦
【負け】鳴海


VS
ジョニー

【林の欲しいもの】

【ジョニーの欲しいもの】

●前半
無事修羅を完成にこぎ着けたディレクター林と、今回は背景のみならず、チャイルドのデザインなどでもその力を発揮したジョニー。

『さっそく林閣下の出番ですね。やはり上司+ディレクター相手というものはやりにくいですか? ジョニーさん』

と軽く様子見をするヨコタに、苦笑する林と『そんなことないっスよ。むしろこういうところで憂さ晴らしッス』と強気なジョニー。度重なるリテイクへの怨みが見て取れる。

さっそく対戦開始。1〜2ターン経過後、自分はどうやら記憶力がないようだと嘆くジョニー。『私はちゃんと覚えてますよ?』と余裕を見せる林ディレクター。

……のはずだったが『アレ?』の連続。さっき出たばかりの片割れのカードをめくっても、すっかり忘れているほどのダメダメ振りだった。

二人ともサイコロでは3〜4を出し続けるという運の良さの持ち主であるにも関わらず、どちらもまともにカードを取れないという希に見る低レベルな闘いが続く。ジョーカーが出るも、同枚数のため交換してもしなくても変わらないという大して意味のない結果に終わる。

それにしても、二人とも覚えが悪い! ギャラリーからも時々失笑がもれるほど。林のミスにジョニーが『ハハハ、こっちスよ』と自信満々にめくるカードも大外れ。もちろん、闘っている二人以外は取れるカードを覚えている。

一回戦の二倍のターンを使ってもまるで対戦が終わらない二人の闘い。白熱するというよりもお互い嘆きあいの慰め合い。一応、この時点では林が僅差で勝っているのだが……。

ヨコタから『日頃から脳は使わないとダメですね』とひどい言われようの二人の勝敗はいかに……?

●後半
『盛り上げるつもり、ないだろう』と言われてしまうほど膠着状態の対戦を見せる二人。


双方『そのカード、どこかで見た……』が口癖となり、以前めくったカードをめくるのとそれのほぼループ状態。ギャラリーから、小さな声で『ほら、そこ。それじゃないって。あーもう……』とため息が漏れる。

『ギャラリーは、もうどこにどのカードがあるかわかってますよ。彼らの目線を見れば、なんとなくわかるんじゃないですか?』

とさすがに見かねたヨコタが助け船をよこすが、なぜかギャラリーと目を合わせ見つめ合うジョニー。潤ませた瞳はまるで何かを訴えているかのようだったが、まったく意味はない。

結局、二人ともカードが合うことがなく、ほとんどのカードをめくるだけめくってしまった訳だが、最後の最後で林の中でパズルのピースがつながったらしい。

林はダメな脳みそをダメなりに総動員。サイコロ3〜4の力も借りつつ、3連続で当てる。それ追いかけるジョニーは最大のチャンスに結局1つしか当てることが出来なかった。
最後は、林の5連続ヒットで終止符を打った。

結果的には林の圧勝であったが、まれに見るほどのヘタレ勝負で対戦する側も見ている側も非常に疲れてしまった。

『闘いというものは常に虚しいものだ……』とぽつりと会議室に響いた言葉が印象的だった。

獲得ポイント
林18組
ジョニー8組
対戦結果
【勝ち】林
【負け】ジョニー


まり
VS
加藤アスケ

【まりの欲しいもの】

【加藤アスケの欲しいもの】

●前半
『確か、この組み合わせは去年と同じですよね? 図らずも因縁の対決になってしまいましたね』

まりもアスケも、何が『図らずも……』だ! とヨコタを睨む。去年のスタッフバトルでは、二人は初戦で対決した。アスケはまりを破り順当に勝ち進んでいったのだが、敗者復活で這い上がってきた
まりと再び対決することに! そしてダーツ対決で破れ苦渋を舐めた記憶が蘇る。今度こそは負けられない。そういう意気込みが見て取れた。

因縁の対決に両者は力が入る。まりの先攻でサイコロを振る。──が
いきなり5を出し、アスケにめくられることに。出だしの運が悪いことを嘲笑いながらサイコロを振るアスケ。しかし、彼女も6を出し同じく運の悪いスタート。

因縁の対決は、双方の運の悪さが手伝ってみっともない対戦が続く。
ひたすら5と6を出す二人。神経衰弱はルール上、一度めくられたカードは片割れのカードの位置がわからない限り、それをめくられると非常に不利になってしまうのだ。

しかし、運が向いてきたのか、まりはサイコロ3・4の目を続けて出し、アスケに大差をつけていく。それを恨めしそうに睨むアスケだったが、なかなかカード獲得には至らず、まりに追いつくことが出来なかった。

『ジョーカー、まだ出てませんよね。そろそろ出てきてもいいと思うんですよね〜。どうですか? お二人とも』

そこではっと息を呑む二人。カードは残り1/3を切り、その中にはジョーカーが含まれている。点差をつけていても、ここでアスケがジョーカーを引いてしまえば二人の差は逆転してしまうことに!
まりが勝つためには自分でジョーカーを引くか、最後までジョーカーを出さずに終わらせるかしかない。

『さ、どっちが引くか……見ものですね』見守るギャラリーとヨコタの目はやたらと楽しそうに光っていた。


●後半
ジョーカーを残したままカードを取っていくまりと、なかなか獲得できないアスケ。

このまま勝ち抜くには、自らジョーカーを取りカード交換を防ぐか最後の一枚にするまで突っ走るしかない。

神経を集中し、カードをめくる二人。まりはもちろんカードの獲得数を重ねるため。アスケはジョーカーを引いて一発逆転するため。

万が一ジョーカーをアスケが取ったとしても、その後でまりに逆転の可能性がない訳ではない。つけられた大差を実力で跳ね返せばいいだけだ。しかし、ジョーカーは出ず、場に残されたカードは徐々に減っていく……。

『場に出ているカードは残り5枚ですね』ヨコタが嬉しそうにカードを数えながらそう言った。

二人のカードを数えるとまり15組、アスケ9組。つまり……ジョーカーが出た後の逆転は既になくなっていた。

追いつめられるまりに不敵な笑顔を見せるアスケ。そして、大方の予想通り『ジョーカーが最後まで残る』ということはなく、アスケの手によってめくられてしまった。

まりは残っていた2組を取るが、追いつけるはずもなくアスケに負けてしまった。

因縁の対決を勝利で飾るアスケだったが『最終的にはチームの獲得カード数で決まりますから』との言葉が胸を突き刺すのだった。この時点ではまだ第4戦は行なわれていなかった。


獲得ポイント
まり11組
加藤アスケ15組
対戦結果
【勝ち】加藤アスケ
【負け】まり


しゃゆり
VS
イカハタ

【しゃゆりの欲しいもの】

【イカハタの欲しいもの】

●前半
対戦開始前から暗雲立ちこめていた最終戦。それはプロデューサーイカハタが辛酸を舐めた去年のスタッフバトルによるものだった。
『確か、自信満々で臨んだんですよね。数万単位の金額をつぎ込んで改造したモデルガンを賭けて』イカハタは初戦でいきなり敗退、大切なものをその価値もわからないしゃゆりに奪われてしまったのだ。

しゃゆりは、今回も負けてはいられないと知能派のイカハタを崩すために試合前から様々な仕込みを仕掛けていた。

まずは、去年奪ったモデルガンをわざわざ持ち出し、それを見せつけるというなんとも嫌らしい演出をし、あげくに精神的動揺を誘うためどこから持ってきたのか対戦用カードを魅惑的な男性の裸体で彩られたカードにするという卑劣極まりない作戦を取ってきたのだ。もちろん、反論するイカハタだったが、それをヨコタが受け入れる訳もない。
かくして目を奪われそうな……もとい直視をはばかれるカードで対戦が始まった。

しばらく見ていてギャラリーが思ったことは『この二人の対決はとにかく卑劣で汚い』というものだった。互いの罵り合いによる精神攻撃はもちろん、わざとルールを忘れた振りをして何度もやり直しをするなど相手の集中力を欠く行動に出たり。さすがのヨコタも唖然とするほどだった。

序盤、なぜかイカハタは調子が奮わずむしろしゃゆりにヒントを出すような凡ミスばかりを続ける。おかげでしゃゆりは次々とカードを獲得し、すでに目で見えるほどの差がついていた。その様子は普段の彼からは想像もつかないほど愚鈍なものに見えた。

『……なにげに我々は既に彼の手の平の上で踊らされているのかもしれませんね。気づきませんか? 例のこと』ヨコタが神妙な面持ちでメガネの位置を直しながらそう言った。

そう、ジョーカーがまだ出ていないのだ。今回のバトルのルール上、ジョーカーによる中盤以降での逆転性があるため、序盤であまりカードを取ることが不利になってしまうのだ。イカハタはそのことも考えて序盤にしゃゆりにカードを取らせる作戦に出ていたのだ!

しかし、後半になればなるほど、相手が引いてしまった時や最後まで引かれなかった時などのリスクもつきまとう。

『そろそろ、この対決も勝負時のようですね』一同、固唾を飲みながらこの対戦の行方を見守るのだった……。


●後半
なかなかジョーカーが出ない状況にイカハタは作戦を変えたのか、先ほどまでとは打って変わってカードを取りに出た。つまり、後半のリスクを避けるために今のうちに互いの差をなくそうという作戦だった。

中盤を過ぎ、ほとんど差がなくなった状態でようやくジョーカーを引くイカハタ。差はないとはいえ現状負けているためしゃゆりとカード交換をする。

『つまり、ここからが本当の真剣勝負……という訳ですね』ジョーカーによる逆転がなくなった今、ここから先は記憶力勝負の真っ向対決という訳だ。

お互い、相手の心理状態を乱そうと饒舌になっていく。カードに対してめくっただのめくらないだのとウソを付き合ったり、古傷に触れるようなことを言い合ったりと高度な心理戦が繰り広げられる。

が、本気モードのイカハタの牙城を崩すことは難しく、しゃゆりは大差をつけられて敢えなく敗北を喫してしまうのだった。

お互いを傷つけ合った今回の闘い、そして前回の因縁を断ち切るべく、しゃゆりはなんと去年奪い取ったモデルガンをイカハタに返還することを申し出る。イカハタは再び我が手に戻ってきた愛銃に思わず目頭に熱いものを感じているようだった。そしてしゃゆりももともと無用の長物だったためか返すことによってなにか重荷が取れたような晴れやかな顔をしていた。


獲得ポイント
しゃゆり9組
イカハタ17組
対戦結果
【勝ち】イカハタ
【負け】しゃゆり

●総合結果

『今回のチームバトルは、勝敗数ではなく総得点数によって決められます。どうやら、勝敗はイーブンに持ち込んだようですが、はたして結果はどうなったでしょうか』

結果を伝えることが至福の喜びと言わんばかりにヨコタが不敵な笑みを浮かべる。

たとえ、勝負に勝ったとしても、チームが負ければその時点で全員がご褒美を受け取る資格を失ってしまう……。

チーム
一回戦 二回戦 三回戦 四回戦 総得点合計
Aチーム
(秋蕎麦、まり、林、しゃゆり)
15
18
11
53
Bチーム
(鳴海、加藤アスケ、ジョニー、イカハタ)
11
15
17
51

『……ということで、第一回戦はAチーム 秋蕎麦・林・まり・しゃゆりの4名が勝利ということになりました!』

『残念ながら、Bチーム 鳴海・ジョニー・加藤アスケ・イカハタの4名はここで脱落! ご褒美は没収の上、ユーザーの皆さんにプレゼントすることが決定しました!』

最終的には僅差で終わった第一回戦。Bチームに敗因があるとすれば緻密な作戦で状況を翻弄したイカハタだったが、リスクを避けるあまりに差を埋めてしまったことが裏目に出たのではないかと思われる。といいつつも、ジョニーがあまりにもヘタレだったせいではないかといういうのが大半の意見だった。ジョニーは、白い目で見られながら『違うんっスよ。アレには訳が』といい訳をしていたが、時既に遅しというところだった。

『無事、第一回戦が終わりました。Aチームの方達は見事なチームワークで勝利を掴まれた訳ですが、わかってますよね?』

勝利を得たはずのAチームの面々からは喜びの余韻は消え、舌打ちとともに仲間から目を逸らし始めた。

『そう、第二回戦はこの4人で対戦して頂きます! 今日からみなさんは敵同士! 決戦の日を楽しみに待っていてください!』



相変わらず楽しそうに口上を述べるヨコタ。仲間内での対戦を前にしたスタッフの暗い表情とはやけに対照的に見えた……。

周りは敵か味方か。昨日の友は今日の敵。自らの欲望にまみれた熾烈で醜い争い・修羅の道。

請うご期待!
イラスト:まり


投票受付は2006年6月15日をもちまして
締め切らせて頂きました。
たくさんのご応募、まことにありがとうございました。


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