第二回戦 (大富豪)
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それぞれの欲しいモノを賭けた熾烈で醜い争い……。第一回戦は終了し、個々の奮闘虚しく半数が無惨に散っていった。
『そのおかげで、ユーザーの皆さんに喜んで頂ける。素晴らしいじゃないですか』
わかっていつつも釈然としない敗者達。あの時あいつが負けなければあれは自分のものだったのに、と闘いが終わってなおもしこりを残す陰惨な闘い。
しかし、勝者もまた釈然としない気持ちに包まれていた。苦楽を共にした仲間達は勝負がついたその瞬間から敵同士となってしまったのだ。仲良くすることすらはばかられる、そんな空気が辺りに漂っていた。
『仕事には影響が出ないといいですけどね……。物欲が絡むとこれだから困りますよね』
と、まるで人ごとのように敗者でありアンティークマグカップを手に入れられなかったプロデューサーイカハタに話しかけるヨコタ。
さもつまらなそうに目線を逸らすことで返事をする彼は、上司権限すら通用しないこの状況に不快感を隠せないでいた。
しかし、彼より複雑な思いに駆られ、心を隠しきれていないのは、この闘いに勝った林、秋蕎麦、まり、しゃゆりの4人だった。
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●前半
『2回戦は、大富豪で勝負をしましょう。3本勝負ポイント制、総合得点1位が晴れて決勝にコマを進めることが出来ます。何か質問はありますか?』
『大富豪って、大貧民のこと?』しょっぱなの質問が、この闘いにかかる暗雲を指し示していた。
つまり、大富豪というカードゲームはもともとがシンプルなルールであるがゆえに、より戦略性を持たせようと各地方で独自のルールが発達していたのである。スタッフ達の出身地域によってはゲームの呼び名すら違うことがあるのだ。
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『8切りあり? 註:1』『10捨ては? 註:2』
『は? 10付けじゃないの?』
『イレブンバックは? 註:3』『なに、それ? そんなん知らないって!』
『じゃあ、じゃあ、階段は? 註:4』『そういや、柄縛りってのもあるけど、どうするの? 註:5』
『最初はダイヤの3だよね? 註:6』『え、それって基本ルールじゃないの?』『ちょっと待て、わからんなってきた!』『2上がりなしだよね? 註:7』『いや、だから待てってば!』
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『──はい、ストップストップ! これから公平になるようにこの闘いでのルールを決めますから、おとなしくしてください』
カードゲームをするより乱闘で勝負を決める方が早いのではと思えるほど興奮した状況を一旦おさめ、ルールを整理することになった。
おのおのやり慣れたルール、十八番にしていた戦略などで攻めたいがために身勝手な主張を繰り返し、なかなかルールは決まらなかったが、最終的には特殊ルールを極力除いたルールを採用することになった。
『今回は3本勝負なので、スタートはダイヤの3から。ゲーム開始時のカード交換(註:8)や都落ち(註:9)などは無し。早上がりのみが勝利条件です。また、2上がり禁止でお願いします。ジョーカーはオールマイティーかつ最強カードです。1位は 5P、2位は 3P、3位は 1P、4位 0Pというポイントで勝負をします』
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2,1,K〜3の順をカードの強さとし、プレイヤーは順番に強いカードを場に出していく。場に出せるカードがなくなると場は流れ、流させたプレイヤーが好きなカードを出すことが出来る。同じ数字を組みにして出すことも出来、その場合は他のプレイヤーも組みで続けなくてはならない。早く手持ちのカードを無くしたものが勝ち。
また、同じ数字を4枚1組で出すことで『革命』が起こり、カードの強さが逆になってしまう。
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8を出した時点で場を流すことが出来る。つまりプレイヤーは同時に好きなカードを場に出すことが出来る。 |
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10と一緒に好きなカードを捨てることが出来る。出した10の枚数だけ出せるか、1ターンに1枚だけかは、地方によって差が出る。 |
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11を出すと、そのターンのみカードの強さが逆転する。 |
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3つ以上の連続した数字を組として出せる。ただし、マークは同じでないといけない(地方によっては揃える必要はない)。もちろん、続くプレイヤーも連続した数字で出さなくてはならない。 |
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2枚連続で同じマークが出た場合、そのターンではそのマークのカードしか出せない。 |
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最初のカードはダイヤの3を持っているプレイヤーが、それを場に出すことで始める。 |
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2=最強のカードを最後にあがってはいけない。革命時には2ではなく3になる。(ジョーカーであがることもできない) |
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ゲーム開始時、直前のゲームの1位(大富豪)と4位(大貧民)は好きなカードと一番いいカードを交換しなくてはならない。 |
註:9
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大富豪の称号を持つプレイヤーは次のゲームで1位が取れなければ自動的に大貧民になってしまう。 |
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ルールを把握したところで、4人はテーブルを囲み、ヨコタからカードを配られる。学生時代から数えて10年振りくらいにやるものもいて、表情に緊張が見て取れる。
1本目
連続したゲームで順位を決めるのではなく、3本勝負ポイント制のため開始は常にダイヤの3から始めることにする。それを持っていたのは、しゃゆりだった。しかも初っ端から2枚1組のスタート。
最初から飛ばした展開で始まるが、もっとも顕著なのは林だった。
強引にKで場を流し、しかも次のターンをJから始めるという横暴。
他のプレイヤーも戸惑いつつ戦略を立て直す。
『林さん、絶好調ですね。さっさと勝負を決めるつもりですネ?』と後ろから人のカードを覗き見たりしながら笑うヨコタ。林はその言葉通り、さらに調子づき、手元に1枚を残しQとジョーカーのペアでトドメに出る。が、それを秋蕎麦が2とジョーカーのペアで返し、さらにその後10を4枚出して、革命!
だが、林の快進撃を止めることは叶わず、そのままあがられてしまう。
革命をしつつも、その後が続かない秋蕎麦をよそにまりが続いて2位。
秋蕎麦は3位を余儀なくされ、しゃゆりは4位という結果に終わった。
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1本目
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順位
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ポイント
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1位
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林
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5P
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2位
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まり
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3P
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3位
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秋蕎麦
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1P
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4位
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しゃゆり
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0P
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2本目 NEW!
なにげにギャラリーとして参加していたシナリオ伊藤が後ろからずっと『やりたい、やりたい』と煩悩まみれの中学生男子のごとく呟いていた。
熾烈な闘いを見ていて、学生時代の血が騒ぎ始めたのだろう。
要領が悪く下手くそなしゃゆりのプレイを後ろから見ていたため、余計に参加したくなったようだ。
『伊藤さん、参加したいですか?』伊藤の答えはもちろんYES!
『しゃゆりさん、つらいですか?』しゃゆりの答えはもちろんYES!
『では、2本目のみ伊藤さんがしゃゆりさんのブレインにつきます!』
いきなりヨコタの横暴な思いつきが実行される。ルールは自分ですからと文句を言わせない顔つきだ。
相変わらず理不尽な展開にぶつくさと言いつつも、ゲームは始まった。
秋蕎麦は最初から強いカードで次々と手持ちを減らしていく。一方ブレインのついたしゃゆりはいろいろと作戦を講じているようだが、本人がダメダメで、カードを落とし林に手の内をばらしてしまったりしていた。
しかも、本人は出すだけで実際に動いていたのは後ろの伊藤だった。
2本目は特に大きな動きもなく、秋蕎麦がそのまま突っ走り1位。続いてまりが2位。ブレインが付いているにもかかわらず3位に終わった
しゃゆりだったが、手持ちのカードを振り返ると、最下位を免れただけでも不思議なくらいで、伊藤の能力の高さを窺わせた。
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2本目までの順位、ポイント
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順位
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ポイント
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1位
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秋蕎麦
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6P
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まり
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3位
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林
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5P
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4位
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しゃゆり
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1P
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3本目
このゲームで勝負が決まる。残念ながら、しゃゆりはこの時点で1位を取っても決勝進出は見込めない。他の3人は拮抗しているため2位以上が必須となっていた。
『ここで3人が脱落です。さあ、頑張って決勝進出してください。ご褒美は目の前ですよ』
各自カードが手渡った時点で、さまざまな表情を浮かべる。有利なカード不利なカード、顔色を窺っているだけでなんとなくわかってくる。
躊躇しては勝ちは手に入らないと、まずはまりが攻めていく。が、手持ちカードが悪いのか、攻めるに攻めきれずすぐに息切れをする。
他のプレイヤーも様々な練ってはいるようだったが、どうもうまくいかないらしく、パスの連続。時には場に3が1枚のみという状況にも関わらずパスが続くという有様。
これではダメだとまりが再び攻めに出るが、勝てると踏んでいたQのペアが林のKのペアで返され、敢えなく撃沈。その後カードを出す機会に恵まれず、そのまま最下位に終わる。
最終的に、決勝進出の可能性がなかったしゃゆりがここに来て1位。
続いて林が2位となった。
各自の手持ちカードを振り返れば、革命が2回起こる可能性もあり、一歩間違えばさらに波乱の状態であったことは想像に難くないが、既に勝負は決していた。
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第二回戦結果
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順位
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ポイント
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1位
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林
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8P
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2位
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秋蕎麦
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7P
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3位
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まり
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6P
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4位
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しゃゆり
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6P
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『ということで……、決勝進出は林さんに決定しました! 林さんには後日前回優勝者のTAKANORIさんと闘っていただきます!』
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よく考えれば、前回優勝しただけでいきなり決勝シードというのはあまりにも理不尽ではないかと、ここに来るまで並々ならぬ苦労をした敗戦者達が口を揃えて言った。
が、しかし『負けた人間に発言権はありませんよ』と髪をかき上げながら笑うヨコタに誰も言い返すことが出来なかった。
『次回は、クロヒゲで闘って頂きます。もちろん、あの追加ルールは健在なままで!』
ついに佳境を迎えるスタッフ同士の欲望にまみれた熾烈で醜い争い。
請うご期待! |
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